夜の光に彩られた香港の高層ビル群とビクトリア・ハーバー。

香港、ビクトリア・ハーバーの有名なスカイライン。写真提供:Shutterstock。

香港ひとりご飯の魅力

一人での外食。社交的な人にとってはつらい時間ですし、内向的な人にとっては嬉しいひとときでしょう。いずれにしても、自宅から約8,000マイルも離れた旅先で一人で外食をするのは、不安がつきまとうものです。慣れない環境では緊張が伴います。周囲から聞こえてくる知らない外国の言葉。メニューは携帯翻訳アプリでなんとか理解できても、少し練習したくらいでは出てくる言葉もたどたどしい。さらに、一人での外食には孤独感も付きまといます。


でも香港なら、孤独を感じることはまずありません。建物や人が密集する活気あふれる通りには広東の相席文化が伝統として根付いており、これまでの一人旅で経験したことのないような楽しい食の体験が待っています。

香港のDai Pai Dong(大排檔)のテーブル。腸粉の点心、調味料、セットされた箸が置かれている。
伝統的な屋台の大排檔では、地元で人気のいろいろな料理を楽しめる。写真提供:Shutterstock

カルチャーショック

香港での一番の目的は、シンプルに「食べること」。ずっとこの街の食文化に興味を持っていました。そして何年も期待をふくらませ続け、とうとう実現することができたのです。

残念ながら、旅行は好調な滑り出しとは言えませんでした。クレジットカードのトラブルで空港に1時間足止めされ、その後は目的のバスを探して空港の周りをスーツケースを引きずって歩きへとへと。Tsim Sha Tsui(尖沙咀)中心部に着いた時にはもう倒れる一歩手前でした。疲れきった心身を今すぐ癒してくれるものが必要でした。もちろん私の場合それは食べることです。

ご旅行に役立つヒント:

相席での食事も旅の醍醐味

相席は、香港の活気あふれる食文化の一部と心得ておきましょう。

丁寧なサービスは期待しないこと

店員はせわしなく、無愛想な感じもしますが、それは効率ゆえ。大勢のお客さんに対応するにはスピードが肝心なのです。

香港は、世界で最も人口密度が高い地域の一つ。誰もがいつも気ぜわしく動き回り、そのスピードが落ちることはほぼありません。だから食事を悠長に待つ時間などないのです。このため、飲食店が満席で店の外に行列ができているときには、赤の他人と突然相席することになります。

最初はびっくりしました。私には知らない人と相席で食べるなんてまったくなじみがありません。ですが、元々一緒にご飯を食べて仲間意識を育むというのは広東のみならず中国文化に深く根付いていて、この伝統があるからこそコミュニティの絆が強くなると思っている人も多いようです。相席での食事作法を見れば、その人がどこの出身かさえも分かるのだとか。料理こそシェアしませんでしたが、私も知らない人と肩を並べて美味しいものを食べたことで、確かに周囲の人との連帯感や文化への理解が生まれたような気がしました。

チャーシュー(中華風の甘辛く炙り焼きした豚肉)の盛られた皿。
豚肉を炙り焼きした香港の伝統料理、チャーシュー。写真提供:Shutterstock。
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一軒目の店:ミシュランの星付き人気店

Yat Lok(一樂燒鵝) はジューシーなガチョウのローストとグリルした肉で有名なミシュラン1つ星の食堂です。到着すると、店は大賑わい。お客さんは料理を楽しみ、料理人は忙しそうに肉を叩き切ったり、刻んだり。注文の料理を載せた皿が次々と運ばれていきます。30人ほどの人が店の外に列を作っていましたが、ここは相席文化のおかげで回転が早いため、アメリカと違ってあきらめて帰る人がいません。

あっという間に列の先頭間近になり、店の内を覗くことができました。私はすぐ前にいたカップルより先に席に案内され(香港では、一人だとどこかのテーブルに押し込みやすいのです)、一組のカップルと、連れがいないもう一人と相席になりました。メニューの吟味をしている時は互いによそよそしくしていましたが、料理が運ばれてくると一体感のある雰囲気に。ローストしたガチョウの皿3つがテーブルに置かれると、まるで何かの競技が始まったかのように一斉スタート。たった一口味わっただけで、「一樂燒鵝」が何年もミシュラン1つ星を獲得してきた理由が分かりました。

ご旅行に役立つヒント:

料理の注文はシンプルに

香港のローカルな飲食店はスピードが命。注文も看板料理の数点にとどめましょう。

ローカルなお店は回転が早い

食事が済んだらすぐに出るのがルール。長居は禁物です。

香港のパイナップルパン(菠蘿包)は、上部はクッキー生地でサクサクした食感、中は柔らかで中央にバターがはさまっている。
香港名物のパイナップルパン(菠蘿包)。写真:Shutterstock。
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二軒目の店:東洋と西洋のフュージョン

相席での食事第二弾はKam Wah(金華冰廳)。ここは、香港の昔ながらのベーカリーと「チャーチャンテン(茶餐廳)」と呼ばれるカフェレストランが合わさったようなところです。チャーチャンテンとは手早く朝食や昼食をとりたい現地住民に人気の、西洋テイストのローカルフードが楽しめるお店です。金華冰廳は大賑わいでしたが、すぐにテーブルに案内され、日本人観光客2人と相席になりました。

私たちが注文したのは、同じようなメニューでした。香港風フレンチトーストと温かいパイナップルパンです。運ばれてきたお皿を見ると金色のトロリとした液体が入った器があり、これは何かと3人でしげしげ見つめました。言葉の違う者同士がやりとりするうちに、戸惑いが笑いに変わりました。その液体の正体は、シロップのような味わいの濃厚な蜂蜜でした。

ご旅行に役立つヒント:

相席は当然のこと

店内が混んでいたら相席も当たり前。地元の雰囲気を楽しむチャンスです。

注文は素早く

あれこれ迷っているとタイミングを逃します。

食欲をそそる広東風お粥。
食欲をそそる広東風お粥。写真提供:Shutterstock。
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三軒目の店:家庭的な雰囲気に包まれて

最後のひとりご飯は、Mui Kee(妹記)で食べた、心も体も癒やしてくれる朝食のお粥でした。Fa Yuen Street Market(花園街街市)にある家族経営のレストラン「妹記」は40年以上もこの地で営業しており、お粥が有名な店です。そのレシピは3世代にわたって引き継がれてきたものだそう。今回は年配のカップル1組、そして私と同じく一人でやってきた年配の男性一人と相席になりました。カップルと男性が広東語で昔からの友人のようにお喋りしています。その様子を見て、私の頭にふと両親の顔が浮かんできました。あつあつのお粥を口に運びながら、自然と心も温かくなる、そんなひと時でした。

ご旅行に役立つヒント:

地元で人気の料理を食べてみる

お粥のような地元のソウルフードを味わうことで、香港らしさが見えてきます。

周囲の人と言葉を交わしてみる

たわいのない話をしたり人間観察をしたり。旅が一気に新鮮なものに変わります。

周りの人たちを観察しながら、一人で食事を楽しむのには慣れています。けれど、香港では「一人で食事をとる」ということがまずありません。知らない人たちと同じテーブルで食事をする、これこそが香港ならではの食体験で、一人旅をする者はそれで街の文化や習慣にたっぷりと触れることができます。地元の人や旅行者を離れたところから観察するのもよいのですが、家族や友人ではない、見知らぬ人と相席で食事すればもっと見えてくるものがあるような気がします。私自身、自分が1本の糸となって香港の食文化の中に織り込まれていくような感覚がありました。

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